亡くなった我が子を思い、少しでも安らかに眠ってほしいと願う両親。しかし、その行為を死後の子供がどう受け止めているのか、残された家族に知る術はない。もしも、善意で行った供養が亡き子供を苦しめていたとしたら――。的野アンジ(@matonotoma)さんのホラー漫画「少年が成仏できない理由。」は、そんな想像から生まれる恐怖と、家族のすれ違いを描いた一作だ。
【ホラー】「成仏を本当に望んでいるのか」我が子を思う両親の祈りが亡くなった子の霊を追い詰める…!!
「安らかに逝けるように」の願いが少年を苦しめる!?
自分の遺影が飾られた仏壇と、泣き崩れる両親を目の前にする少年・ひろと。幽霊となった彼は、母親の涙をそっと拭おうとするなど、生前と変わらない家族への愛情を見せている。
ところが、両親が供養のために線香を焚くと状況は一変。「臭い!!」と苦しみながら、ひろとは線香の火を握りつぶしてしまう。線香が突然消えたことで、母親は息子がまだこの家にいるのではないかと感じ、死後もこの場所に囚われているのなら可哀想だと涙する。
そんな妻を落ち着かせようと、父親は家の中に清めの塩を撒く。しかし、その塩がひろとの霊にかかると、肌は焼けただれ、激しい痛みに襲われる。「やめて…」とつぶやくひろとの声は、両親には届かない。
やがて両親は神職を招き、ひろとを成仏させるための儀式を行うことにする。「ひろとを自由にしてやってください」「どうか、無事に逝って…」と祈る2人。しかし、ひろとにとって、それは苦しみから逃れるどころか、さらなる責め苦だった。
「三人で一緒にいたい」という思いを抱えたまま、ひろとは焼き尽くされてしまう。それでも両親は、これで息子が安らかにあの世へ旅立ったのだと信じていた。
「百物語」だからこそ描ける、一話完結の恐怖
本作は、的野アンジさんが「少年サンデーS(スーパー)」および「サンデーうぇぶり」で連載するホラーオムニバス漫画『僕が死ぬだけの百物語』に収録された一篇だ。読者からは「よくこんな事思いつくな」「その行為が本当にあちらの人が望んでるかどうかなんてわからんところが怖いですね」といった反響が寄せられた。
「百物語」という形式を選んだのは、初めての長期連載だったこともあり、続きものより一話完結のほうが描きやすいと考えたためだという。ホラーのオムニバスとして考えたときに、百物語が最もしっくりきたそうだ。
そんな短編のアイデアは、夜に怖い気持ちでいるとき、目に入った物や聞こえてくる音から膨らませることが多い。「そういうときに目に入ったものでどんな怖いことがあったら嫌かを想像して描き始めることがよくあります」と明かす。
「何かが出てくるかもしれない」待つ時間こそ怖い
的野さんがホラーを描くうえで重視しているのは、怪奇現象そのものだけではない。明確な恐怖の対象が現れる瞬間よりも、「今に何かが出てくるのではないか」と待っている時間こそが、最もつらく怖いと感じるという。そのため、作品では怪奇現象よりも、ハラハラしながら汗を流す人間を描くことが多いそうだ。
また、ホラー漫画を描くようになったことをきっかけに大学のオカルト研究会にも入会したとのこと。そこで十物語やこっくりさん、ブラッディー・メアリーなどが行われていたものの、本人は「怖がりなので降霊会は全く参加出来ませんでした」と振り返る。
作品を漫画の中だけの出来事にしないため、郵便受けや鏡など、できるだけ身近なものをテーマに置くこともこだわりのひとつ。「読んだ後にも気になったり、嫌な気持ちになって頂きたいです」と語る。
我が子を思う両親の愛情と、そこに隠された取り返しのつかないすれ違い。ひろとの「三人で一緒にいたい」という願いが届かないまま終わる本作は、何気ない供養や身近な物の見え方まで変えてしまうような、後味の残る一篇となっている。