スターバックスで創業当時から愛されてきた、スマトラのコーヒー豆。豊かなハーブや大地を思わせる風味が特徴のこのコーヒー豆は、現地でどのように生産され、私たちのもとに届くのだろう。日本から飛行機で約10時間、遠く離れたスマトラでのスターバックスの取り組みとともに、その現場を紹介する。

アラビカ種の栽培に適したスマトラの気候
赤道直下に位置するスマトラ島は、コーヒー栽培に最適な気候をもつ“コーヒーベルト”に位置する。スターバックスで提供されているアラビカ種のコーヒー豆は、昼夜の寒暖差が大きな標高の高い土地で栽培されている。
高層ビルが立ち並ぶメダンの喧騒を離れ、バスで約4時間、山道を進んで標高1000メートルを超えたあたりからは、蒸し暑さから清涼感のある山の空気へと変わり、高山植物が鮮やかに彩る農園が姿を現す。ここはスマトラ北部、巨大なカルデラ湖「トバ湖」の周囲に広がる高原地帯だ。
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この辺りでコーヒーを育てている生産者のほとんどは、0.5~1ヘクタール程度の小規模農家だ。コーヒーノキのそばには、キャベツや玉ネギ、豆類などの畑が広がる。ここではコーヒーは家族の暮らしを支える重要な収入源であり、代々受け継がれてきた生活の一部。そして、野菜は家族の食卓を支えるもの。この土地ならではの複合的な農業の営みのなかで、コーヒーの旅は始まる。
農家の情熱と、それを支えるFSC
スマトラのコーヒーが私たちのもとに届くまでの工程は、大きく「農園」「ウェットミル(一次加工)」「ドライミル(最終加工)」「輸出・品質管理」「焙煎」「店舗」の6つのフェーズに分かれる。スマトラの最大の特徴は、農家が自らの農園で一次加工(果肉除去・部分乾燥)まで行うこと、そして「ウェットハル(半水洗式)」と呼ばれる独自の精製方法が用いられることにある。そしてスターバックスでは、そのそれぞれの工程でC.A.F.E. プラクティスのトレーサビリティが機能している。
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C.A.F.E. プラクティスは、品質基準、社会的責任、経済的な透明性、環境面でのリーダーシップという4つを軸に、コーヒー栽培や生産者を守ることを目的として策定された、スターバックス独自の購買ガイドライン。
さらにスマトラ島では、2015年にスターバックスの農業支援の拠点・ファーマーサポートセンター(以下、FSC)を開設。農園に対し、コーヒー栽培の知識・技術・コスト管理のトレーニングを行うなど、持続可能な農業の普及のため、インドネシア全土の約1万4000のC.A.F.E. プラクティスの支援を行っている。
たとえば、コーヒー栽培には、適切な日陰をつくるシェードツリーの管理が欠かせない。1ヘクタールあたり約200本のシェードツリーを植え、40%ほどの日陰を確保することが推奨されているが、以前は、シェードツリーの概念や適切な施肥(せひ)を知らない農家が少なくなかったという。しかし、FSCを通じてその知識が広がり、シェードツリーを植え、肥料は土壌検査に基づいて不足分だけを補う方法に変わり、コスト削減に加えて長期的な土壌の健全化につながっている。
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農家への苗木配布プログラムもあり、「代々続く土地でよりよいコーヒーを作りたい」という農家の情熱から、多くの生産者が積極的に参加している。単に苗木を提供するだけでなく、持続可能な農業を根本から支えるため、発芽管理から育苗まで一緒にトレーニングを行う。近年は気候変動による影響も受け、乾期と雨季の境目があいまいになり、コーヒー豆の収穫時期にも変動があるという。そうした変化への対応策を考えるのも、FSCの役割だ。

これらの支援は、FSCのスタッフにとっても、大きな喜びだと言う。マネージャーのイタさんはこう語る。
「苗木はやがて収入を生み、家族の生活を少しずつよくしていく力になります。苗木という小さな贈り物が、未来の農家の家族の暮らしを変えていく…その成長を見届けられることこそ、この仕事の大きな喜びのひとつです。
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そして変わらないのは、農家の人々の情熱と温かさ。家族のように迎えてくれる笑顔と優しさが、私をこの仕事に向かわせ続ける力になっています」

農園 ~完熟を見極め、即日加工を支える仕組み~
コーヒーノキは真っ白な花が散ったあと、緑色のコーヒーチェリーが実る。コーヒーチェリーはゆっくりと色づき、ルビーのような赤色に熟したら収穫だ。この収穫が、品質に最も影響する。
同じ房でも実が熟すタイミングは異なるため、完熟した赤いチェリーだけを一粒ずつ手で摘み、未熟な実は後日に回す「選択的収穫」を行う。熟度を見極め、虫食いを避けながら丁寧に摘む作業は想像以上に時間がかかり、毎日違う木や房が熟すため、収穫期の農家は雨の日も休まず作業を続けている。
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そして収穫したコーヒーチェリーは、その日のうちに一次加工を始めなければならない。時間が経つと発酵が進み、品質が落ちてしまうからだ。
まずコーヒーチェリーを洗って異物を除去し、水に沈む重くしっかりと実った良質なチェリーだけを選別する。

ハンドパルパーや電動の果肉除去機などで外皮と果肉を除去し、パーチメント(薄い殻付きの状態)にして洗浄し、部分乾燥を行う。

次の工程を行う施設「ウェットミル」まで、バイクすら所有できず運搬手段を持たない農家も多くいる。そこで重要なのが、集荷、運搬を行ってくれるコレクター(仲介業者)の存在だ。近くのコレクターズハウスに持ち寄ることで、運搬業務を代行してもらえる。彼らがいることで、品質維持に欠かせない即日加工が実現している。
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ウェットミル ~独自の加工法から生まれる青い生豆~
ウェットミルに運ばれたチェリーは、スマトラ独自の「ウェットハル」によって加工される。通常の水洗式では、乾燥したあとに脱穀するのに対し、スマトラでは、“半乾燥”の状態で脱穀する点が最大の特徴だ。雨が多く晴れ間が少ない気候の中で発展したこの技術が、結果としてスマトラ特有の風味を生み出している。
農家から運ばれたパーチメント状態のコーヒーチェリーは、コレクターや地域ごとに分けた発酵タンクで、18~36時間の と洗浄を経て、ビニールハウスで乾燥させる。
少し土っぽい香りが残る豆は、1日半ほどで水分量を半分以下まで下げるが、その間も定期的に手作りのレーキ(コーヒー豆を均一に広げ、乾燥させるための道具)で攪拌しながら乾燥のムラを防ぐ。ウェットミルには何棟ものビニールハウスが並び、1袋60キロほどある袋をかついで運んで乾燥させて…を繰り返す根気と体力のいる作業だ。
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そして、水分量の多い湿った状態で脱殻(ハル)することで、独特の青みがかった深緑色を帯びた生豆になる。英語で「グリーンビーンズ」と呼ぶように、通常、生豆の色は“緑”といわれるが、スマトラではこの色を“青み”と表現する。その“青み”も、スマトラの豆の象徴的な特徴だ。
脱穀後は、最終乾燥は天日で3〜5日かけて水分量を12%まで下げ、最終加工施設「ドライミル」へ運ばれる。現地の生産者は「ほかの産地がウェットハルを試みても、スマトラのような複雑な味わいは再現できない」と胸を張る。スマトラの土壌がもつ栄養素、気候、そして代々受け継がれてきた農家の手仕事…これらすべてが重なって初めてこの味が生まれるのだ。
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スターバックスには「コーヒーの未来を確かなものに」という言葉がある。FSCのイタさんにとってこの言葉は何を意味するのかを尋ねると、「こうした生産をずっと続けられること。現在の人だけでなく、未来の世界中の人もずっとコーヒーを飲み続けられるようにすることです」と語ってくれた。
こうした想いや、現地の生産者、コレクターなどに支えられたコーヒー豆の旅はまだ続く。後編は、ウェットハルを経たあとのコーヒー豆が私たちのカップへ届くまでを紹介する。
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