全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。4つの県が独自のカラーを競う四国は、県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

四国編の第48回は、高知県高知市の「くろしお珈琲」。桂浜からもほど近い港町にあって、古民家を改装した店構えは、一見すると開店から3年とは思えない。店主の中島さんは、イタリアで本場のエスプレッソと出合ったのを機にコーヒーの道へ。高知市街でコーヒースタンドを立ち上げたあと、移転を経て心機一転。ロースターをメインにしながら、バリスタ育成や自店主催の競技会など、高知のコーヒーカルチャーの充実に力を入れている。
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Profile|中島篤史(なかじまあつし)
1996年(平成8年)、高知県生まれ。10代後半でエスプレッソの魅力に惹かれ、バリスタを志す。ワーキングホリデーでヨーロッパに渡って本場の味を体験し、帰国後の2018年、高知市街にコーヒースタンド「Coils」を開店。コロナ禍の3年の間に、独学で自家焙煎をスタートし、バリスタからロースターに専念すべく、「Coils」を閉じて、2023年に新たに「くろしお珈琲」をオープン。2025年から抽出の競技会・ドリップローカルを主催するなど、バリスタの育成にも注力する。
エスプレッソをきっかけに走り出したコーヒーの道

高知を代表する名勝・桂浜への道すがら。太平洋を望む海岸沿いの道から、少し外れた港町の商店街。古い街並みに残る、木造家屋を改装した「くろしお珈琲」の店構えは、一見するとコーヒーショップとは思えない。「ここはギリギリ高知市の南東の端っこ。元々倉庫向けとして出されたもので、手直しすれば、ラフなカフェくらいはできるかと思って、ランニングコスト優先で決めました」と店主の中島さん。2023年の開店以来、今も店内はちょっとずつ改装しているが、このラフな大らかさが却って気兼ねない。
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中島さんがコーヒーに傾倒したのは、エスプレッソの魅力に惹かれた10代後半のころ。自分も出してみたいと思い立つや、「バリスタを目指すなら、本場のエスプレッソを体験すべき」と、ワーキングホリデーでヨーロッパへ。1年の滞在を経て、帰国したあとは、当時開店間もない、Royal Niboshi coffee standに足繁く通った。「ちょうど帰ってきたころにニボシができた。ヨーロッパに1年行って帰ってみたら地元で飲めるようになってた(笑)。その中で島崎さんから聞いて、当時、神戸にあったエスプレッソ+に行って、超リストレットのシグネチャーにハマって。これを自分でも出したいと思った」

持ち前の行動力を発揮して、2018年、弱冠21歳にして、県庁近くにコーヒースタンド「Coils」をオープン。高知でエスプレッソを提供したのはニボシとCoilsが先駆け的存在だった。ただ、一人で試行錯誤しながら営業するなかで、バリスタよりロースターに興味が移っていった。「どこかで修業してやるより、独学の方が性にあってた。まずは実践、やり始めて走りながら考えて追求するのが好きなので」と、最初はマルチロースターの豆を仕入れてたが、コロナの間にサンプルロースターで焙煎に着手。3年ほどは自家焙煎豆と仕入れ豆で並行して提供した。同時期には、本連載にも登場したソンマレックコーヒーが開店。高知のコーヒーシーンに現れた新風が、変化の兆しをみせ始めた。そのころにロースターに専念すべく、Coilsを閉じて心機一転、「くろしお珈琲」をオープン。焙煎所は市内に別で開設し、新たに長浜にカフェを移した。
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移転を機にバリスタからロースターに注力

あえて、市外から離れた場所を選んだのは、Royal Niboshi coffee standの影響も大きいという。「ニボシは郊外の古い商店街にポツンとあって、地域に溶け込んで続けている。しかも、スペシャルティコーヒーに縁のない土地柄で、エスプレッソを出して、町にも受け入れられているのがかっこいい。ここもロケーションは似ていて、いつか、そうなれたらいいなと思う。どの町にも一軒、コーヒー店があればいいなと思った」
豆は月替りで5種ほどを提案。ブレンド1種は固定で、シングルオリジンは入れ替わる。「個人的には酸味のあるコーヒーが好み。プロセスが複雑な豆よりは、きれいで飲みやすいものがいい」と、価格帯を意識しながら、クオリティの高いクリーンな風味の豆をセレクトする。
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一方で、エスプレッソは、開店前に感銘を受けた、神戸のエスプレッソ+を意識。四国では珍しいイスラエル・コーヒーテックエンジニアリング製の焙煎機、イタリア・WEGAのレバー式エスプレッソマシンを導入したのも、その店に倣ってのこと。曰く、「超リストレットのシグネチャー」を再現するべく、エスプレッソには専用の深煎りブレンドの豆を使う。そのエスプレッソを使った人気のアレンジドリンク、ブラックレイヤーは、地元のひまわり牛乳の低温殺菌牛乳を生かしてレシピを考案。まろやかなキャラメル風味は、温度変化によって移り変わる質感が印象的だ。

ところで、「くろしお珈琲」では、中島さんはロースターに注力して表に立たず、店での提供はすべて別のバリスタが担う。実は、焙煎と提供を分業しているコーヒー店は、高知では意外に少ないそうだ。「『くろしお珈琲』を立ち上げたのは、若手バリスタに、実際に店に立つ場を作るという動機もある。この空間は現場に立つバリスタが切り盛りするので、各々のカラーを自由に出すのが可能。壁のポスターとか花とかにもキャラクターが出てくるのがおもしろい」と中島さん。現在、ヘッドバリスタを務める小林真愛人さんは1年前から高知市内のカワクボコーヒーでバリスタとして働きだし、「くろしお珈琲」のワークショップに参加したのを機に兼業で経験を積んでいる。ちなみに、前任の元ヘッドバリスタは2025年に独立。中島さんも積極的に独立をあと押ししている。
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新たに始めたドリップ競技会に込めた深意

さらに2025年からは、店が主催する抽出の競技会・ドリップローカルをスタート。プロ・アマ問わず参加条件なしという、オープンな形式の大会は、高知では初の試みだ。「前々から温めていた企画で、若手バリスタが増えてきているなかで、もっとコーヒーのおもしろさを知ってほしいと思って。また、お客さんも実際に抽出する機会を持てば、コーヒーに対する意識が変わるかもしれない」と中島さん。以前、自身が競技会にエントリーした時に感じた、大会ならではの体験を元に、バリスタにとっては勉強の機会に、お客にとっては運動会のノリで気軽に参加できるイベントとして、同じ会場で淹れることでコーヒーの知識や技術を共有しようというわけだ。

競技形式は、予選は全員が同じ課題豆でドリップ。決勝は直前に発表される豆をカッピングし、一発勝負でいかに特徴を引き出すかを競う。使用するドリッパー、ミルなども自由で、さまざまな器具を見られるのも一つの狙い。今後は、年2回の開催を予定している。
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自店のことに限れば、中島さんには、大会に対してこんな思いがある。「この大会は、バリスタがコーヒーのおいしさを説明するための機会でもある。お客さんに出す時に、自分ではおいしいと思っていても、“なぜ、どのように”というところまで理解してない人も多い。おいしさの理由は、ロースターからバリスタ、お客さんへと伝わっていくので、現場のバリスタには、何がおいしさを作っているのかの理解を深めて、“コーヒーを伝える人”になってほしい」
開店から2年を経て、「店の改装がまだ途上なので、まずは店内のDIYを完成させたい」という中島さん。今も走りながら考えて、高知のコーヒーカルチャーのさらなる充実を見据えている。「ここでは独立志向を持つバリスタも多いので、より向上心を持って、それぞれの最終的なゴールを目指してほしい。スタッフの新陳代謝は激しいけど、ここで密度高く仕事を吸収してもらえたら。独立したあとには、『くろしお珈琲』の名前も広めてもらえたらうれしいですね(笑)」
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中島さんレコメンドのコーヒーショップは「ミギキシコーヒー焙煎所」。
次回、紹介するのは、高知県越知町の「ミギキシコーヒー焙煎所」。
「清流として有名な仁淀川の上流で、2025年に開店したニューフェイス。山間の集落にある古民家をリノベートした店は、のどかな里山のロケーションもほかにない魅力です。店主の右田さんは、地域おこし協力隊として会社員から転身、現地に移住して開店したユニークな経歴の持ち主。高知に新しく加わった個性派コーヒー店として、応援したい一軒です」(中島さん)
【くろしお珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/コーヒーテックエンジニアリング 2.4キロ(電熱式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(VEGA)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/あり(550円~)
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン4種。200グラム1600円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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