
「推しに会うためなら、どこへでも」――そんな思いで全国各地を巡る“推し旅”は、今や旅の楽しみ方のひとつになっている。たとえば、推しのイベントを見るために全国各地へ遠征する人もいれば、アニメやドラマ、映画の舞台となった場所をめぐって聖地巡礼をする人、好きな武将や偉人、時代のゆかりの地を巡る歴女や歴史ファンなど、“推し旅”とひと言でいってもさまざまな愛の形がある。そしてここ10年ほど冷めやらぬ熱を抱え続けているのが「刀剣女子」と呼ばれる刀剣ファンだろう。某人気ゲームに登場する刀剣を一度この目で見てみたいと、その刀が眠る聖地へ赴くファンも多い。今回は、そんな刀剣ファンに贈る記事である。ぜひ訪ねてみてほしい場所が、沖縄本島北部・今帰仁(なきじん)村にあった。
今帰仁村は、かつて琉球王国が誕生する以前、沖縄本島北部を治めた「北山(ほくざん)王国」の中心地として栄えた歴史ある地。世界遺産「今帰仁城跡」をはじめ、今も琉球王国時代の文化や自然、昔ながらの集落景観が数多く残されている。沖縄には美しい海を目当てに訪れる人が多いと思われるが、この村には別の魅力がひっそりと息づいていた。
続きを読む
今帰仁村には、刀剣ファンには見逃せない「今帰仁歴史文化センター」がある。見た目は素朴で小さな資料館である。まさかここで琉球王国の宝刀として知られる“あの刀剣”をお見かけするとは…!!貴重な刀剣を間近でじっくり鑑賞できるだけでなく、その刀が歩んできた歴史や北山王国、琉球王国との深い関わりまで知ることができる資料館である。歴史を学び、その舞台となった世界遺産を歩き、さらに当時の面影を感じる集落を巡る――。この夏は、“推し”を入り口に、沖縄の歴史ロマンへ飛び込む聖地巡礼の旅に出かけてみよう。

推しに“いつでも会える”のが魅力!琉球王国の宝刀・千代金丸を訪ねる
今帰仁歴史文化センターに眠る刀剣…それは琉球王国の宝刀として知られる千代金丸である。千代金丸は、琉球王国に古くから伝わる国宝の刀剣であり、沖縄を代表する文化財のひとつとして知られている。その由来には諸説あるものの、琉球王国の歴代国王へ受け継がれた「三振の神剣」の一振とされ、王国の歴史を語るうえで欠かせない存在だ。現在は国宝として大切に保存されており、その名は歴史の資料にもたびたび登場する。
続きを読む
某人気ゲームでもキャラのモチーフともなっており、ゲーム中で実装されているキャラは穏やかで優しい雰囲気をまといながらも、琉球の歴史や文化を背負う存在として描かれ、多くの審神者(さにわ)たちを魅了してきた。そんな“彼”に一度は会ってみたいと思うのは、ごく自然なことだ。しかし現在、その願いは少しだけ難しくなっている!
現在、本物の千代金丸は那覇市歴史博物館で大切に保管されており、これまでは特別展などで公開されてきた。常設展示ではないためもともと見られる機会は限られていたのだが、さらに同館は新博物館への移転準備に伴い2025年9月から閉館しており、現在は本物を鑑賞することができない状況となっている。新施設のオープン日や新施設での公開日については、今後の案内を待ちたいところだが、「今は会えないの?」と気落ちした人に、ぜひ知ってほしい場所がある。それが、今帰仁歴史文化センターである。

続きを読む
館内には、2015年に製作された千代金丸の精巧なレプリカが常設展示されている。このレプリカは「約600年ぶりに千代金丸が今帰仁へ“里帰り”する」という歴史的な意味も込めて製作されたもので、刀身の反りや刃文、細部の意匠まで忠実に再現。文化財を間近で感じられる貴重な展示となっている。
そして、何より“距離の近さ”もポイントだ。ガラスケース越しとはいえ、細かな装飾や刀身の美しさをじっくり観察できる距離で展示されており、「ゲームで見ていた推しが、この三次元の世界の中に確かに存在していた」――そんな不思議な感覚が胸に込み上げてくる。
もちろん展示されているのはレプリカだ。しかし、その価値は決して“本物ではない”という一言で評価されていいものではない。レプリカが置かれている場所は、かつて千代金丸が活躍した場所で、千代金丸が歩んできた歴史を刻んだ場所だ。その歴史背景を知り、その姿を間近で見つめる時間は、ゲームの世界と現実が静かにつながる瞬間でもある。推しに会いに来たはずだったが、気づけば琉球王国という壮大な歴史の世界観へ引き込まれている。今帰仁歴史文化センターは、そんな特別な体験ができる場所なのだ。
続きを読む

千代金丸が生きた時代を知る。今帰仁歴史文化センターで歴史ロマンに浸る
千代金丸のレプリカをじっくり鑑賞したあとは、ぜひ館内のほかの展示にも目を向けたい。今帰仁歴史文化センターは、単に文化財を展示する施設ではなく、今帰仁城跡の歴史や北山王国、琉球王国の成り立ちまで幅広く学べる歴史博物館でもある。

館内には、中国や東南アジアとの交易を物語る陶磁器や発掘調査で出土した遺物、当時の暮らしを伝える資料などが数多く展示されており、今帰仁がかつて国際交流の拠点として栄えていたことを知ることができる。千代金丸が受け継がれてきた時代は、どのような文化が育まれ、人々はどんな暮らしを送っていたのか。展示を見ていくうちに、一振りの刀だけを見ていたときには気づかなかった、歴史の広がりが少しずつ見えてくる。「最初は、推しに会いにきただけだった」そのはずなのに、気づけば琉球王国そのものに興味が湧いてくる。そんな体験ができるのも、この施設ならではだ。
〈今帰仁歴史文化センター〉
続きを読む
住所:沖縄県国頭郡今帰仁村字今泊5101
営業時間:9時~17時(最終入館16時30分)
定休日:月曜日※祝日または慰霊の日に当たる場合は翌日、12月29日~1月3日
料金:無料
駐車場:320台(無料)
アクセス:那覇空港から沖縄自動車道経由で車で約2時間45分

歴史を知ったあとだから胸が熱くなる!世界遺産「今帰仁城跡」を歩く

歴史文化センターで千代金丸や北山王国について学んだあとは、いよいよ世界遺産・今帰仁城跡へ。知識を持って歩く今帰仁城跡は、最初に訪れたときとは全く違う景色に見えてくる。13世紀頃に築かれたとされる今帰仁城は、北山王国の王城として栄えたグスク。現在は「琉球王国のグスク及び関連遺産群」のひとつとして世界遺産に登録され、沖縄を代表する歴史スポットとして多くの人が訪れている。

城内でまず目を奪われるのは、山の地形に沿って約1.5キロにわたり連なる壮大な城壁だ。曲線を描きながら続く石積みは、本州の城郭とはひと味違う美しさがあり、そのスケールの大きさにも思わず息をのむ。そして、この場所を歩いていると、不思議な感覚に包まれる。「かつてここで国を治めた王がいた」「ここへ使者が訪れた」――そして「この時代を千代金丸も見つめていたのかもしれない」。歴史文化センターで学んだ知識があるからこそ、目の前の石垣や城門、遠くに広がるやんばるの景色が、単なる史跡ではなく“歴史が息づく舞台”として心に迫ってくる。この場所は刀剣ファンのみならず、歴史好きにとっても想像力をかき立てられる特別な空間だ。
続きを読む


〈今帰仁城跡〉
住所:沖縄県国頭郡今帰仁村字今泊5101
営業時間:通常8時~18時(最終入場17時30分)、夏期(5~8月)は~19時(最終入場18時30分)
定休日:なし
料金:大人1000円、中高生500円、小学生以下無料
駐車場:約320台(無料)
アクセス:那覇空港から沖縄自動車道経由で車で約2時間45分


今も変わらぬ時間が流れる「今泊フクギ屋敷林と集落景観」

今帰仁城跡をあとにしたら、この旅の締めくくりとして2019年に重要文化的景観に選定された「今帰仁村今泊のフクギ屋敷林と集落景観」へ足を延ばしたい。集落には防風林として植えられたフクギが数百年にわたって育っている。木漏れ日が揺れる集落の小路をゆっくり歩いてみよう。そこには観光地のにぎわいは全くない。昔ながらの石垣や赤瓦や白瓦の家々が残る風景は、沖縄の原風景そのものだ。
続きを読む

史跡のような華やかさはないが、この集落には亜熱帯気候に属する島々の集落の暮らしが色濃く今に残っており、沖縄の歴史が穏やかに息づいている。この景観の中を歩いていると、ゲームの中の千代金丸がこの角を曲がってきても、不思議ではないと思ってしまう。史跡や資料館では体感できない、今帰仁村のもうひとつの顔が、この場所にはあった。

〈今帰仁村今泊のフクギ屋敷林と集落景観〉
住所:沖縄県国頭郡今帰仁村今泊3074
駐車場:なし
アクセス:那覇空港から沖縄自動車道経由で車で約2時間45分※今帰仁城跡から車で約5分

「ちょっと推しに会いに行ってくるわ」から始まった旅先で歴史にリスペクト
推しの刀をきっかけに訪れた今帰仁村で出合ったのは、一振の刀だけではない。その背景に広がる琉球王国の歴史、世界遺産・今帰仁城跡が語り継ぐ物語、そして今も昔と変わらない時間が流れる集落の風景――それらすべてがつながったとき、この旅は“聖地巡礼”という言葉だけでは表せない特別な体験へと変わっていく。歴史に触れ、文化を知り、風景を歩く。推しに会いに来たはずだったが、気づけば今帰仁村そのものを好きになっていた。そんな忘れられない旅が、この今帰仁村に待っている…!
取材・文=大庭かおり/写真=樋口涼
※営業時間は変更になることがあります。詳しい時間は公式サイトをご確認ください。
※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。
記事一覧に戻る