
ある日父親が「がん」と告知され、余命宣告を受けた。すでに体中に転移していて抗がん剤投与も現状維持になれば御の字だという。愛する家族の死と向き合う姿を描いた、うつみさえ著『父の逝きざま 末期ガンの父を自宅で看取るまで』を紹介するとともに話を聞いた。
日本はこれから多死社会となり、自宅での看取りが増えていく




「お父さんな、ガンやって」と、ある日電話を受けた作者で漫画家のうつみさえさん。命に関わる重大な宣告を受けた人に、どんなテンションで声をかければいいかわからずに戸惑ったが、電話口で父親は元気だった。実家に戻ると、空港まで迎えに来てくれていた。「お父さん、めっちゃ痩せてる」と、言葉にならない思いが錯綜する。病院で医師から言われたのは、抗がん剤治療をするか、延命治療をしないで緩和ケアを受けるか、選択肢は2つしかない。「父のガンは想像よりずっと悪かった…」。あまりのショックに皆、言葉を失った。
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「こんなふうに描いてもらって、お父さん喜んでるよ」自信を持って本を供えに行こうと思う






――制作のきっかけを教えてください。
父を自宅で介護しているとき、これは父が教えてくれる私たちへの最後の教育なのだろうと思っていました。日本はこれから多死社会となり、自宅での看取りが増えていくそうです。今回私が父から学んだことや経験したことが、何かの参考になるかもしれないと思い、漫画にしようと思いました。
――実話ということで、ご家族を描かれることについて、どのようなお気持ちでしたか。
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父の死を商売にすることに、ずっと後ろめたさがあったのですが…。身内も読者の方も皆さん、「こんなふうに描いてもらって、お父さん喜んでるよ」と言ってくださったので、今はこれも一つの供養の形だと思い、自信を持って父のお墓に本を供えに行こうと思っています。
――執筆中と執筆後で何か心境の変化はありましたか。
執筆中はできなかったことを思い出して後悔することもありましたが、物語としてまとめたことで、「あのときできることを精一杯やったんだな」と自分を認められた気がします。私は、終わりに向かっていく父が満足そうに見えました。もちろん父の本当の気持ちはわかりませんが、あとがきを一気に書き上げたとき、私がそう感じたのならそれでいいんだと、腑に落ちた感じがしました。
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死は絶望ではなく、生き抜いた先にあるゴールなんだと感じた





――突然の余命宣告を受けてからの闘病記ですが、本作に込めた思いを聞かせてください。
父の亡くなる瞬間を目の前にしたとき、死は絶望ではなく、生き抜いた先にあるゴールなんだと感じました。闘いの期間はとても短かったですが、父は最期の瞬間まで父らしく生き切ったと思います。親が死ぬことは悲しくてつらいことだけど、悲しいだけじゃない物語にしたいと思って描きました。父の最期の瞬間を描いたシーンは、特にその思いを強く込めました。
――制作するうえで気を付けたこと、こだわったところがあれば教えてください。
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湿っぽい話にしないように気をつけました。暗い話もいっぱいあるけれど、私たち家族は基本とても明るいので、日本のオムツの素晴らしさを語ったり、今日がヤマだと言われて飛んできた父の友人に、父のものを形見だと言って押し付けようとしたり、不謹慎にも笑えるシーンを多く描くことにこだわりました。
――読者の方にメッセージがあればお願いいたします。
連載中、親を亡くされた方から「ずっと抱えていた後悔が、これを読んで楽になった」とコメントをいただきました。これから迎える方も、すでに終えられた方にも、何か心に残すことができる本になったと思います。
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私は、寝る前に親の死を想像して泣いているような子どもでした。怖くて受け入れられない、だからこそずっと心の準備をしてきました。そんな私が、突然手のつけられない末期のがんがわかった父に対してどう行動し、父の死をどう受け止めたか。親の看取りの一つの例として、読んでいただけたらうれしいです。
取材協力:うつみさえ
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