
理系大学・大学院という、女性が圧倒的に少ない閉鎖的な環境で起こった悲劇。理系女ちゃん(@rikejo_chan)が描く漫画『先輩は綺麗な人だった』は、同じ出来事を男性(後輩)と女性(先輩)それぞれの視点から描くことで、人間関係の恐ろしい「認識のズレ」を浮き彫りにしている。X(旧Twitter)で10万件以上の「いいね」を集めた本作が、なぜこれほどまでに読者の背筋を凍らせるのか、その背景を深掘りする。
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美化された「純愛」:後輩の目に映る淡い恋心



物語の前半は、大学院の先輩に恋をした後輩の視点で進む。彼にとっての先輩は、容姿端麗なだけでなく、性格も素晴らしい「完璧な女性」だ。彼は先輩にふさわしい男になろうと研究に没頭し、研究室でトップの成績を収める。
ついに意を決して先輩を呼び出し告白するが、結果は「ごめんなさい」。後輩の視点では、実らなかったものの全力を尽くした「淡く切ない恋の思い出」として美しく描き出されている。
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暴かれる「現実」:先輩が感じていた粘着質な恐怖
しかし、物語の後半で視点が先輩に切り替わると、景色は一変する。後輩の容姿は、美化されていた姿とは裏腹に、清潔感に欠け暗い印象を与えるものとして描かれる。先輩にとっての後輩は、「対人経験の乏しさゆえに距離感が測れない、不気味な存在」だったのだ。
頻繁に届くLINE、一方的な執拗な好意。先輩の視点では、後輩の行動は熱意ではなく「執着」であり、呼び出されたシーンは「告白の場」ではなく、身の危険を感じる「恐怖の瞬間」へと変貌する。後輩の抱く「あきらめきれない」という未練が、先輩にとっては終わりのない「呪い」のように感じられるラストは、読者に強烈なインパクトを残す。
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理系院という「閉鎖空間」が歪ませる常識
著者の理系女ちゃんは、理系学生が大学進学者の約35%に過ぎず、大学院まで進むとさらに少数派になる現状に着目している。「理系大学院は研究に忙殺され、外部との関わりが極端に減る場所。その閉鎖的な慣習が、個人の常識を歪めてしまうこともある」と語る。
本作ではあえてナレーションを排除し、それぞれの主観のみを描くことで、他者の視点が介入しない「独りよがりな好意」の危うさを強調した。理系大学院という独特な世界観をベースに、アカデミアが抱えるコミュニケーションの課題や、人間関係の深淵を鋭く切り取っている。
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取材協力:理系女ちゃん(@rikejo_chan)
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