手軽に買える国民的チョコ菓子「ブラックサンダー」。定番の味以外にも季節ごとに登場するフレーバーやご当地限定品もあり、多くの人に親しまれ、愛されている。商品のフレーバーの数と同じように、おもしろい企画も数々行ってきた。大人が全力でちょっとおふざけ感ある施策に取り組み、消費者を巻き込んでいく。そんな“日本一ワクワクする菓子屋”を目指す「有楽製菓」社長の河合辰信さんに話を聞いた。

“フリー素材”として「ブラックサンダー」のPRに出まくる河合社長

9月6日は「ブラックサンダーの日」。2025年の「ブラックサンダー」の日は、ブラックサンダーの断面が顔に見えるということから始まった「断面モンスター」キャンペーンを実施。マスコミ各社にキャンペーンを紹介するために社長自らプロモーションを行った。
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「ブラックサンダー断面モンスター」キャンペーンの特設サイトで展開されている動画でも河合社長の活躍ぶりがすごい。ここまでやる社長はなかなかいない。振り返れば、これまで「ブラックサンダー」が行ってきたさまざまなキャンペーンや施策で、よく河合社長が登場してきた。「私は“フリー素材”なので、社内で要望があれば使ってもいいと。自ら出たがっているわけではないですが、フリーと言った以上、自由に使ってもらっています。今まで断ったことはないですね」(河合社長)

2018年に3代目社長に就任以来、さまざまな施策に河合社長が登場。特に2019年のハロウィン企画ではタレントのMattさんがメイクを施し、Matt化したビジュアルが大きな話題を呼んだ。2021年のバレンタイン企画のブラックサンダーの空き袋をつないで作ったマフラーを巻いた河合社長の写真が予想以上にバズるなど、広告塔としても大成功を収めている。
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また、「ブラックサンダー」というと、忘れてならないのがバレンタイン。2023年の頭まで1本30円(税別)で購入できたコスパのよさと、それを誰もが知っているという認知度の高さから、どう考えても義理チョコというイメージをそのまま活かし、2013年に初のバレンタイン広告として「一目で義理とわかるチョコ」と打ち出した。そこから、義理チョコ=ブラックサンダーとしてアピールを続け、そのたびにさまざまな企画を展開してきた。


しかし、バレンタインについて近年は方向性を変えた。バレンタインにネガティブな印象が付き始めたからだ。「子どものころのバレンタインはワクワク、ドキドキする楽しいイベントだったと思うんです。それがどこかネガティブなイメージになってしまった。だから、あのころのワクワクを再び!と思って、最近はいろいろな企画に取り組んでいます。とにかく我々も、購入する人、食べる人もみんなが楽しめるような企画をと思っています」(河合社長)。
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2013~19年までは義理チョコ応援だった。その後「自由に楽しむバレンタイン」をテーマにして、“バレンタインの原体験は、青春時代にある。青春時代こそ、多くの人が自由にバレンタインを楽しんでいた” ということから、“青春時代”にフォーカスした『それもありでしょ?バレンタインBACK TO青春』を2022年に実施。下駄箱や“壁ドン”などの練習ができるマネキンなどを販売したり、バレンタインから逃避するための「バレンタイン忘却室内用テント」や鮮やかなブルーのブラックサンダー「青春サンダー」を販売したりした。

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23年は「ブラックサンダー」と「ばかばかしい」の頭文字のBにちなみ「B級バレンタイン未来博」を開催。どういうわけか、「ブラックサンダー」ならぬ「クラッブサンダー」ということでラブ&ピースの象徴としてカニにフォーカスしたイベントを実施。24年は“あげる”ことにこだわった「ブラックサンダー」の天ぷらの提供。25年は「ワックワクがザックザク」をテーマに「ブラックサンダー」のつかみ取り企画と、常に楽しい企画で消費者をワクワクさせてきた。



こうした企画が実施できる背景には「自分たちもワクワクしていないと、人をワクワクさせられない」(河合社長)という思いがある。有楽製菓には社長室がなく、社長と社員の距離が近いのも特徴。思いついたことは誰でも発信できる、社長に相談できる、みんながワクワクできる、そんな雰囲気があるという。おもしろそうと思ったことは、くだらないと思うことでもとりあえず提案してみる。社長の意見を聞いてブラッシュアップされ、実際の企画になることも多い。「お菓子も企画も一緒に作っているという思いがある」と河合社長。とにかく社員が楽しみながら、消費者に楽しんでもらえると信じながら企画を進めていく。
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かなり振り切った展開に挑む有楽製菓。さまざまな取り組みの中で失敗したことはないのか。河合社長は「いろいろやってきましたが、失敗したと思ったことはないですね。すべてがチャレンジした結果であり、ひとつの経験」と言い切る。河合社長が絶対的に大切にしているのは“お客様の視点”。常に自分自身が客の立場で物事を見たり、考えたりしているという。そう考えると、自分たちがやってきたことはすべてが経験であり、次に活かす材料となる。この考え方が社員の発想を自由にし、ワクワク仕事ができる環境を作っているのだろう。

常に楽しい企画を展開する有楽製菓だが、今後はどのような展望を持っているのか。「ひとつは海外展開です。海外ではこんなにおいしいブラックサンダーを食べられない。損をしていると思っているんです。だから海外に住む人たちにもブラックサンダーを食べて欲しい。今はモンゴルでのプロモーションに力を入れています。鉱山労働者や肉体労働者が多い地域では、手軽に食べられるブラックサンダーはぴったりです。ブラックサンダーのザクザク食感は無心になれる、リフレッシュできる、満足感がある。ぜひたくさんの人に食べて欲しいですね」(河合社長)。
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もう1つは「より身近な存在になること」。「ブラックサンダー」というブランドをより身近に感じてもらえるように、いつも一緒にいられるように、「食べるだけでなく、生活の隙間に、心の隙間に寄り添える存在になりたいと思っています。例えばアパレルでの展開や関連グッズの開発・販売など、食べるときでなくてもブラックサンダーがそばあることで、ワクワクできたり、笑顔になれたりしたら最高です」(河合社長)。

「ブラックサンダーの日」の「ブランクサンダー断面モンスター」でのSNSキャンペーン9月末で終了したが、すでにこの先の新たな企画は動いているようだ。次にどんなフレーバーが登場するのか、どんな企画やキャンペーンを行うのか、「ブラックサンダー」のことだから、きっと何かやってくれるに違いない。ただのチョコ菓子メーカーではない、“日本一ワクワクする菓子屋”の今後に期待したい。
取材=浅野祐介、取材・文=岡部礼子、撮影=阿部昌也
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