右耳難聴や子宮内膜症など、自身の体験をわかりやすくコミカルな漫画で描いてきたキクチさん(kkc_ayn)。なかでも、母親の自宅介護と看取りがテーマのコミックエッセイ「20代、親を看取る。」では、自宅介護の現実や、“親との死別”と向き合う中で複雑に揺れ動く感情が描かれており、同じ経験がある人や親の老いを感じ始めている同世代などから大きな反響を集めた。
コミックエッセイ「父が全裸で倒れてた。」は、母を看取ってから約2年後、今度は父が病に倒れてしまう話だ。母の介護・看取りを経たことで落ち着いて対応できることは増えたものの、あのときとは違い、一人っ子として頼れる家族がいない中でさまざま決断を迫られることになるキクチさん。いつかは誰もが直面する“親の老いと死”についてお届けする。
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今回は、リハビリに励む父親を見た作者が退院後の生活について思いを巡らせるエピソードをご紹介。






約2ヵ月半の寝たきり生活で筋力が衰え、歩くのも困難な父親
バレンタインデーに合わせて、入院中の父親にチョコレートを差し入れした作者。久しぶりのチョコレートをとてもうれしそうに食べている姿が印象的で、作者も喜びや安堵の気持ちが湧いたのではないだろうか。
「両親と同居していたときは私から父へバレンタインをあげる習慣がなかったので、まさか入院中が初めてのバレンタインになるとは思いませんでした(笑)。オランジェットを買ったのは、父がときどき好んで食べていたからです。たしか当時は誰かからのいただきものだったと思います。その記憶があったので、前々から気になっていた近所のショコラトリーでオランジェットを購入しました。よっぽど美味しかったのか一気に半分くらい食べていたので、『それくらいにしておきな』と制止するほどでした」
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チョコレートをおいしく食べた後は、少し前から始まったというリハビリの時間に。その様子を作者が見学していると、父が立てていることと同時に脚がガリガリすぎることにも驚かされる。
「父の脚はもともと太くて筋肉質。短距離走の人の脚という印象です。でも数ヶ月寝たきりになった父の脚は、私の足首ほどの細さになっていました。誰がどう見ても哀れんでしまうような細さと貧弱さなのに、父は『憧れの細さだ〜!これまでどうやっても細くならなかったのに!』と美脚さ(?)を喜んでいるようでした。とはいえ、このままではいけないというのは感じているようで、リハビリも前向きに取り組み、プロテインも積極的に摂取していました」
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リハビリに対して前向きな父親は頼もしく見えるが、以前のように一人で不自由なく動くことは難しそうだ。そうなると、やはり作者としては退院後の父の生活が心配になるだろう。
「少し前まで寝たきりだったことを思えば、立てるようになったことでさえも奇跡で、喜ばしいことです。でも回復してきたのであれば、喜んでばかりではいられません。自宅で父は一人で生活できるのか? 入浴や排泄など、特定の動作のときに補助が必要になるのか? そもそも階段だらけの自宅に戻るのは最適解なのか? 母の時に在宅介護を経験したからこそ、あらゆる心配事が浮かびあがりました。これらを“その時になったら考えよう”では自分が苦労することも目に見えていたので、先回りして動く必要があると思いました」
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退院後の生活が見え始めたことで、新たな懸念事項も生まれる様子が描かれた今回のエピソード。つらい状況も淡々と、時にクスリと笑える場面を挟みながら描くキクチさんの漫画を、今後も楽しみにしてほしい。
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