
「シャッターアイ」という特殊能力を持つ主人公の憲。見た光景を一瞬で記憶し、二度と忘れることができない。彼の頭の中は常に膨大な記憶で満たされている。そんな彼が仕事中に見つけた遺体の男に、どこか見覚えがあり——。第87回ちばてつや賞で期待賞を受賞した可惜夜季央さん(@atarayokio)の『記憶遺棄』を紹介するとともに、制作の裏側を伺った。
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特殊能力を持つ男の頭の中を占める、遺体の男の記憶



主人公の憲は特殊清掃員として、まもなく取り壊されるアパートの清掃に向かった。誰も住んでいないはずの部屋だが、誰かが隠れて生活していた痕跡があり、食べ物の腐敗臭やプラスチックの残骸に混じって強い異臭が漂っていた。
部屋の清掃を進めるなか、ゴミの山の中から遺体を発見する。男の身元は不明だが、憲は男にどこかで会ったことを思い出す。憲は、男性が亡くなったことを伝えるために遺族のもとへ向かうことを決意する。
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制作のきっかけはYouTube?記憶と残置物が織りなす物語
特殊能力を題材にした本作について、可惜夜季央さんに話を聞いた。
本作を描いたきっかけは、当初「ゴミやごちゃごちゃしたものを描きたくて、いつか遺品整理や特殊清掃の話を描きたい」と考えていたことだったという。その時に母親がYouTubeで遺品整理のチャンネルを観ていたことから、「“記憶”と“残置物”の組み合わせは面白い」と思い、作品が生まれたと明かした。
第87回ちばてつや賞期待賞を受賞した感想を尋ねると、「すごくうれしいです。自分は変わらず自分の好きなものを描き続けていてよかったんだなと思えました」と語った。審査員からは「キャラクターが魅力的」「設定やアイデアが秀逸」といった言葉をもらったといい、「キャラクターを考える時間が一番好きなので、そこを褒めていただけて、自分のしたかったことでちゃんと楽しんでもらえているんだということがわかってとてもうれしかったです」と喜びをあらわにした。
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記憶が呼び起こす苦悩と、多面的な人間描写へのこだわり
漫画を描く上でテーマにしていることについては、「人の多面性というか、ごく普通の人が、実は変わった人だったり、すごい能力があったり、ものすごい経験をしてたり、サイコパスだったり…といった、外面からは想像もつかない“ある一面”をどんな風に見せていこうかな、ということはいつも楽しみたいし楽しんでほしいと思っているところです」と話す。
見たものを画像のように記憶する能力「シャッターアイ」を持つ憲は、勉強に関しては何の苦労もない「イージーモード」だったという。しかし、その膨大な記憶ゆえに常に脳がフル回転しており、日常生活ではぼんやりしがちで、気遣いまで頭が回らないという苦悩も抱えている。彼の保守的な性格から、自分を守るためにネガティブな思い出の方が優先度が高く思い起こされてしまうのかもしれないと分析した。
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『記憶遺棄』では、記憶能力と遺留品から遺族へつながったが、亡くなった男は人には言えない罪を犯していた。父親との記憶を消したいと願う娘の気持ちが痛いほどわかる憲は、娘の「消したい記憶(トラウマ)」を消せるようにと動いていく。
取材協力:可惜夜季央(@atarayokio)
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