国の重要伝統的建造物群保存地区(以下、伝建地区)に選定されている山口県柳井市の「白壁の町並み」を活かした新たな観光スポット「シークレットミュージアム Yanai Yamaguchi」(以下、シークレットミュージアム)が2025年6月21日に誕生した。江戸時代の商家の町並みに並ぶ複数の建物を「ひとつのミュージアム」として活用する「分散型ミュージアム」として、全国各地から集めたアート作品を展示するほか、本格的な謎解きを通じて町の周遊を楽しめる常設施設となっている。

非公開の展示会場を巡る“ネタバレ厳禁”な周遊展示とは?
「分散型ミュージアム」と謎解きの掛け合わせが楽しめる「シークレットミュージアム」では、東京都内で活躍する謎解き制作会社とミュージアムのキュレーターのコラボで、本格的な謎解き体験が楽しめる。この謎解きのためだけに制作された隠し扉を開けて、秘密の部屋に入ったり、さまざまな仕掛けが詰まった特製の冊子を用いてスパイ映画さながらの謎解きに挑戦したり。さらには、秘密の暗号を入手して町の店員と暗号のやり取りを楽しんだりと、映画の主人公になったような没入感を味わえる内容となっている。
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さらに運営キャストが、“ストーリーテラー”として登場し、セリフを通して来場者を物語の世界へといざなう。たとえば、来場したゲストに対し「貴重な文化財を見学するに足る人物かどうか」を試す運試しの勝負を挑んできたり、さりげなく謎解きに必要なヒントを出してきたりと、謎解きをより没入的な物語体験へと進化させてくれるのだ。

公開施設では無料で見学できるパブリック展示も!新旧入り混じる柳井の名スポットを巡ろう
謎解きの立ち寄り地の多くはもちろん「シークレット」だが、受付場所である「木阪賞文堂 白壁店」のほか、みどりが丘図書館(柳井市立柳井図書館)と佐川醤油店という「白壁の町並み」周辺にある観光スポット2カ所への立ち寄りは公開されている。これらの施設では、無料で見学できるパブリック展示の実施もあるので、「シークレットミュージアム」の謎解きに参加する時間がないという人でも、観光の立ち寄りスポットとしておすすめだ。
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館長にインタビュー!
今回は「シークレットミュージアム」という斬新な形態の施設をオープンした理由や、一般的な謎解きとの違い、展示のこだわりなどについて、館長を務める株式会社オフィスミゴト代表の芳賀尚賢さんに話を聞いてみた。
――「シークレットミュージアム」立ち上げの狙いや目的を教えてください。
「山口県でいまだかつて見たことのないエキゾチックな文化コンテンツ」を提供するという気概で、本プロジェクトを立ち上げました。もっと言うと、全国的にも珍しい取り組みを入れたいという想いもありました。
山口県・柳井には「白壁の町並み」と「金魚ちょうちん」という2つのキラーコンテンツがあります。しかし、これらのコンテンツが示す「北前船による全国のエキゾチックな文化の集積地」という柳井の特徴まではスポットが当たっていませんでした。そこで、本プロジェクトでは、「全国からおもしろいものが集まる町」という個性的な歴史をエンターテインメントに昇華することを目的に「分散型ミュージアム」というまだ世間的に知られていないユニークな手法を取り入れました。
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さらに、「分散型ミュージアム」ならではの複数の拠点がある点を活かし、受付以外場所を明かさないミステリアスな運営という国内初の個性を作り出しました。来場されたゲストは、「見学後も場所を明かさないこと」を条件に参加できるという面で、旅行の満足度を高める「特別な体験」、そして「エキゾチックな雰囲気」を味わうことができます。
また、「白壁の町並み」は歴史的な価値を持つエリアであるものの、全国で2番目の短さという、滞在時間が観光上の課題でした。そこに「伝建地区の見学」×「ミュージアム体験」×「謎解き体験」×「町の周遊」という複数の要素の掛け合わせにより、圧倒的な体験密度による滞在時間の延長に取り組みました。そして、同じような白壁の伝建地区は全国各地にたくさんありますが、国内の伝建地区群の中で「ここでしか体験できないアクティビティ」を用意することで、ほかの観光地の中でも際立つ個性を持つことを目指しました。
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――「シークレットミュージアム」のコンセプトの特徴を教えてください。
「シークレットミュージアム」は、かつて北前船が立ち寄った港町の商家の家に、今でも全国からエキゾチックな文化が集まるという「可変性」と「拡張性」を意識した設計にしています。文化的施設に注目したプロジェクトでは、コンテンツの新鮮味や継続的な話題の提供が難しいのですが、柳井の歴史の特徴と全国から集まった高水準のエンターテインメントを掛け合わせることで、継続的な変化や新しさの受容を可能にしています。
また、「行きたくてもどこにあるかわからない」というスタイルも特徴のひとつです。このようなミステリアスな運営を行う背景には、コンテンツの拡張やブラッシュアップを持続可能なものにしていきたいという想いがあり、そのために入場料をいただいております。その入場料の対価として提供するコンテンツが良質な体験であるために、「知られてなんぼ、どうか知ってください」という形の「見物料ビジネス」ではなく、あえて秘密にすることで、「何それ、詳しく知りたい」という旅行者の好奇心への訴求することも、このコンセプトにいたったきっかけになります。
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――いまだない新しい取り組みを目指したとのことですが、実現に向けて困難だったことなどはありますか?
前代未聞の取り組みであり、かつ複数の視座から成り立つ切り口だったので、しっくりくる言葉を使って関係者への説明することが非常に困難でした。しかし、直感的に「今まで聞いたことがない」「ワクワク感が強い」と感じてもらえることも多く、ゴールへの漠然とした「おもしろそうな雰囲気」は伝わっていました。そこに、綿密に設計された戦略的な意図の解説を加えていくことで、多くの人に興味を持っていただけました。
――「シークレットミュージアム Yanai Yamaguchi」の謎解き体験の特徴を教えてください。
たとえば、アートを題材にした設定の謎解きの場合、イミテーションのアート作品を置き、気分を盛り上げる事例も少なくないと思います。しかし、本プロジェクトで展示されているのは本物のアート作品です。謎解きの専門会社と、企画プロデュースやアート展の専門会社がコラボすることで実現した、特別な体験空間を楽しんでいただきたいです。
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また、本プロジェクトは「実際のシチュエーション」を設定に取り込んだ「圧倒的なリアリティ」も売りにしています。たとえば、「日本各地からエキゾチックな文化が北前船で運ばれてきたこと」、「店の主人がさまざまな調度品をプライベート空間で愛でてきたこと」、「今まで集めてきた品々を初公開すること」といった事実をショーアップし、謎解きに昇華しています。このように、完全にフィクションのストーリーと異なり、伝建地区ならではの歴史を活かして、どこまでが実際でどこまでが設定なのかわからなくなる体験を目指しました。

――さまざまなアートを全国から集めたそうですが、イチオシなどあれば教えてください。
まずは、人の身長を超す巨大な青森ねぶたです。作品を作成したのは、「青森ねぶた祭」で6年連続での「優秀制作者賞」を受賞したねぶた師の北村春一さん。その新作を鏡面仕上げの床が特徴である漆黒の部屋の中に展示しており、床に映り込むねぶたの優美な姿が楽しめます。
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また、壁や床がプリズムに囲まれた「プリズムルーム」も注目です。京都の金閣寺や黄金の茶室を現代的にアレンジしたような光り輝くプリズムの部屋では、和室の四方がプリズムになっており、中央には人より大きな巨大な光のオブジェが据えられています。床の間には花の掛け軸がかけられており、今まで見たことのない和室に出合えます。

――最後に一言お願いします!
山口県のみならず、日本全国にはたくさんの歴史的な町並みが残っています。そのどれもが素晴らしく、行き先に迷ってもどの旅先も正解であると思います。もちろん「柳井の白壁の町並み」もそのひとつです。日本には「歴史や文化に触れられる街歩き」のコンテンツがたくさんありますが、柳井の白壁の町並みでは、「アート」・「謎解き」・「町の周遊」・「一見さんでは入ることのできない未公開の場所への訪問」という複数のお楽しみが掛け合わさった、唯一無二の体験をお楽しみいただけます。日本の数ある観光地の中でも「最先端の文化財との関わり方」をぜひご体感ください。
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未公開だったプライベート空間で「秘密」を辿りながら町の周遊を楽しめる新感覚の「シークレットミュージアム」は、夏休みや週末のおでかけ先にぴったり。謎解きと数百年と続く歴史の蓄積の融合という、一歩踏み込んだ観光体験を楽しんでみよう。もちろんネタバレはNGだ!
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文=平岡大和
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